あいすみません

早期退職?セミリタイヤ?・・・いやいやダウンシフトです!「筋トレ」「読書」「映画&音楽&スポーツ鑑賞」で心身を整えています。

青木俊 著:冤罪ドキュメント小説「潔白」(本の紹介)

「潔白」

青木俊 著

幻冬舎

2017年7月10日第1刷

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冤罪をいかに無くすか

この小説「潔白」は、死刑後の再審請求を、遺族、協力する弁護士、つぶそうとする検察官、国家の意思を忖度する裁判所等の立場から描いていくミステリーです。厳密にいうと、ミステリーと言うよりも、ドキュメント小説と言った方が良い内容です。なぜならば、本書の内容は九州で起こった飯塚事件の再審請求を取材し、内容をリンクさせているからです。

飯塚事件NNNドキュメントでも放映されたように、冤罪の可能性がとても高い事件です。1992年に幼児が殺され、被疑者が1997年に逮捕されます。決め手はDNA鑑定。そして裁判の結果2006年に死刑判決が確定するのです。被疑者は一貫して無罪を訴え続けていました。そして弁護士が再審請求を準備していた矢先の2008年に、死刑が執行されたのです。通常死刑判決を受けた場合、判決から2年で執行というスピードはありません。異例の執行でした。

飯塚事件のこの時期での死刑執行の強行は、実は別の殺人事件の再審請求がリンクしています。こちらの逮捕の決め手もDNA鑑定だったのです。1990年に栃木県でおこった足利事件のDNAの再鑑定が、2008年に決定したのです。この後の展開はご存じのとおり、2009年にDNA鑑定の誤りが見つかりました、つまり冤罪であった事が確定したのです。国家が無実の人を数十年も牢屋に入れていたわけです。

この2つの事件のDNA鑑定は、同じ時期に、同じ組織の、同じ人が、同じやり方で行った鑑定です。片方は合っていて、片方は間違っているという事は考えにくいのです。足利事件無期懲役飯塚事件は死刑判決でした。国家は足利事件のDNA再鑑定を行う事を決めた時に、なぜか?飯塚事件の死刑を急いで執行してしまったのです。

何故でしょうか?いろいろな理由が考えれられます。有罪率が99%以上というこの国の司法で、死刑判決された人間が、実は冤罪だった時の大きな影響・・・それは死刑廃止にもつながりかねないのです。警察は間違えない、検察は正義、裁判官は神の視線で判決を下す、という大前提が崩れてしまうのです。そこで死刑を執行してしまえば、2度と再鑑定はできません。事件現場で採取されたDNAも、最初の鑑定時に使い切ってしまったとすれば、完璧に隠ぺいできるわけです。

DNA鑑定の先進国、アメリカでも冤罪が起こっておりますが、再鑑定で無罪となる人も多くいます。イノセンス・プロジェクトという弁護士を中心として立ち上がった組織の活動もあり、再鑑定で多くの死刑囚の冤罪を晴らしているのです。

日本でもできないのでしょうか?

1:DNA鑑定の技術の進歩が速いことを認識する

2:採取したDNAの保存(使い切らない)

3:取り調べの完全可視化(長時間の取り調べ、自白の強要、捜査官の暴言・脅し)

4:弁護側への全ての証拠開示の義務付け(検察に都合の悪い証拠は開示されない)

これらを法制化すれば、冤罪はゼロにできるかわかりませんが、確実に減らせると思います。でも・・・やらない。これをやると、警察、検察、裁判所全てに都合が悪くなりますので。

本の感想

本書のベースに飯塚事件があることは、まちがいありません。その上で、著者の青木氏がミステリーとしての要素を加えています。国家が無実の人を逮捕し殺してしまった訳ですから、それは後始末を押し付けられた者は必死です。登場人物たちの、国家権利力への忠誠と忖度が、これでもかと描かれ、読んでいるとイライラするところがあります。これは作家のねらい通りの展開ですね。

これが、この本はミステリーというよりも、ドキュメント小説、ドキュメントドラマではないか、と書いた理由です。現実の事件からインスパイアされ、取材をして、それを物語に転じるという手法、こういうやり方も確かにありますね、とうなずけるものでした。

お奨め度

ミステリーファンだけでなく、冤罪と言うものの恐ろしさ、おぞましさを知りたい方、ドキュメンタリーや本で冤罪事件関連を追いかけている方にも、お奨めします。わたしもジャーナリストの清水潔氏の本を読み、警察という組織の複雑さ、裁判所の怪しさ、冤罪の恐ろしさを知りました。この世の中から冤罪が無くなるよう望んでいます。

法律の基本中の基本である憲法が曖昧にされ、法律を守らないどころか勝手に作ってしまう権力者が現れ、日本も法治国家として、怪しいというか2流になりつつあります。他国の政治や国家体制を批判している場合ではありません。

そんな暗い時代に、問題だと思う事を、エンタテインメントに変換して、世の中に伝えるという試みは、表現方法として「有り!」だと思いました。わたしとしては、最近の自分のホットなテーマ(警察、裁判、取材、冤罪)を描く作品であり、直球をど真ん中投げ込まれたような小説でした。

(それでは・・・あいすみません)

 

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