邦題:怪物はささやく
原題:A MONSTER CALLS
監督:J.A.パヨナ
原作:パトリック・ネス
2016/アメリカ
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「永遠の子供たち」の監督の新作だって!だったら観なくちゃ!!
この作品を観ることにしたきっかけは、監督の存在です。映画『永遠の子供たち』って知ってますか?
パヨナ監督による、2007年制作のスペイン・メキシコ合作映画です。自分が育った孤児院を買い取り、家族で引っ越してきたら、子供がいなくなってしまう。母は必至で探すが、心霊現象が起こり・・・・その不可思議な現象の裏には驚愕の悲しい結末が待っていた、というものです。
この作品は事前にストーリーを書いてしまうのは不味いので、これ以上書き込めません。とにかく、わたし的には恐怖と驚きと感動とが入り混じった、大好きな作品となったのです。良く練られた物語展開、ショックと安堵の緩急、全体的にセンスの良い、泣きの恐怖映画でした。スペイン最大の映画賞ゴヤ賞で、14部門ノミネート・7部門受賞。米アカデミー賞外国語映画賞してます。
この『永遠の子供たち』を当時観に行った理由は、ギレルモ・デル・トロ監督の制作クレジットでした。監督よりも、制作者のクレジットの方が大きかった。デル・トロ監督の『デビルス・バックボーン』『パンス・ラビリンス』・・・これらの作品と永遠に続く映画的なつながり。
そういうわけでデビュー作を鑑賞し、すっかりパヨナ監督を気に入ったわけですが、2010年の『灼熱の魂』という作品で、ドゥニヴィル・ヴィルヌーブ監督(『メッセージ』『ブレードランナー続編』)のファンになり、2008年の『クローバー・フールド』でマット・リーブス監督(『モールス』『猿の惑星:新世紀』、新しい『バッドマン』の監督)に注目し、わたしの新世代の気になる監督の一人となったわけです。これらの監督の作品は、どれも最新のデジタル映像技術に長けていつつも、ただのCG映画にならずに物語を語りきる演出力を感じます。
このパヨナ監督の『永遠の子供たち』の次の映画は、『インポッシブル』という作品でした。2012年のスペイン映画で、ナオミ・ワッツとユワン・マクレガー主演。スマトラ沖地震の津波に巻き込まれた家族の物語です。この映画はNetflixにラインアップされています。タッチが違う作風なので、先に『永遠の子供たちを』観てください。
物語と感想(ネタバレ有り)
観ていない方からすると、何を書いても実はネタバレですので、なるべくい注意して書いてますが、お気に障ったらお許しください。
こちらが原作のトレーラーです。すごいクオリティの児童書、大人のわたしでも読んでみたい。
こちらが海外版の映画予告編です。
物語は、大好きなお母さんが病気で死んでゆくということを、受け入れるまでの少年の物語です。画家志望だった母の才能を受け継いだ少年は、感受性が豊かで、自分の寂しさを、絵を描くことで紛らわせています。学校の先生や友人、祖母や別れて暮らす父親は、そんな少年の深い悲しみや、別れへの恐れを理解していません。
ある日、少年の家の裏の丘にある1本の木が、怪物になり少年に語りかけます。「自分は3つの物語を話すので、4つめは少年が隠していることを話せ」少年はその約束を、受け入れます。怪物は3つの物語を話すのですが、その間も母はどんどん衰弱していきます。そして少年が約束をはたす時に、語られる物語は・・・。
映像的なイマジネーションが素晴らしい作品です。少年の空想と重い現実が入り混じっている状況を、見事に映像化しています。
怪物が語る3つの物語の本当の意味は、何だったのだろう?怪物は、なぜ現れ、物語を語るのだろう?そんなことを考えていました。
わたしは、怪物から語られる物語は、少年が母の死を受け入れるための物語であると思います。人生には善悪や正誤では綺麗に分けることができない、事が多々ある。真実や起こる出来事にも、その見方により、様々な解釈が成り立つということです。
そして4つ目の少年の秘密の物語は、彼の心の中では、母は助かる、治るという気持ちと、どうみても治らない、無理だ、という気持ちが交錯しています。自分が心の中では母の死を受け入れてしまっている、このことを否定する自分、言えない自分。それが壮大なビジュアルで表現されるのです。
この作品は、愛する者の死を受け入れ、永遠の別れを経験しても、自分の人生は続くのだということを、死にゆく母の姿を通じて、自覚する物語なのではないでしょうか。ラストシーンで、怪物の正体?を少年が気づくシーンがあります。上手い展開です。
実は、偶然に愛する者の死をテーマとした作品を、続けて観てしまいました。前に紹介した『百日告別』は、死から始まる残された者の弔いの物語でした。
「怪物はささやく」は、死につつある母に寄り添い、それを受け入れるための現在進行形の物語だと思います。少年役の俳優の演技は素晴らしかったです。壊れそうな繊細さ、追い詰められ爆発寸前の状況を、上手に演じています。周りを固める俳優は確かなので、映画を引き立てます。でも祖母のシガニー・ウィーバーが有名すぎるので、違う俳優の方がわたしは良かったかなあと勝手に思ってますが。リーアム・ニーソンが声を担当する怪物は、祖母の家の中に飾られた写真に写る亡き祖父の姿を観ると、少年の前に現れた怪物に重なるものを感じさせてくれます。
先に書きましたが、本当に映画らしい、物語とビジュアルと音が見事に融合した作品でした。
星取
★★★☆(5点満点)
最初★4を付けたのですが、一晩考え変更しました。この作品を★4にすると『パンス・ラビリンス』や『永遠の子供たち』に いくつ付ければよいのか、整合性が取れないなあと、思った次第です。わたしは、★3でも高く評価している作品です。たいていの作品が★2程度なので。
鑑賞中、少年のどうにもならない状況にやられ泣いてしまいました。愛する人の死を描けば悲しいのは当たり前なので、映画ってやつは、それだけではズルいと思っています。別に泣ければ良い映画であるとも思ってはいませんが、本作品はファンタジーの中に、別れの予感と恐れを深く掘り下げて描いてくれているので、わたしは評価をします。
おしかったところは、3つ目の物語の表現が、現実と完全にシンクロするのですが、2つ目の物語の後半と内容がかぶる感じがしました。監督もそう思ったのかな?怪物の語る物語の方を、はっしょった感じがしました。
でも全体的には、大人の鑑賞に耐えうるダーク・ファンタジーであり、それは少年の心の旅の物語です。
(それでは・・・あいすみません)
ps:なぜか?偶然愛する者の死をテーマとした映画を続いて鑑賞してしまいました。