「裁判所の正体 法衣を着た役人たち」
瀬木比呂志、清水潔 著
新潮社刊
2017年5月20日発行
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冤罪事件に興味をもったことが読書のきっかけ
本書を読むことにしたのは、
著者の一人である清水潔氏の過去著作の『殺人犯はそこにいる』を読み、テレビドキュメント『飯塚事件』を視聴し、日本において冤罪がなぜ起きるのか?死刑判決で冤罪の可能性が有る事などありえるのか?どこに制度上の欠陥があるのか?を知りたいと思った事がきっかけです。
今回の本は元裁判官であり、日本の裁判の問題点、裁判所や裁判官の裏側を、過去の著書で伝えてくれている瀬木 比呂志氏との対談形式で、まとめた本であります。
この本の中で、精度の低いDNA鑑定と警察の見立て捜査による状況証拠の数々により、『足利事件』の殺人犯として逮捕され、その後の警察の長時間拘留により精神的拷問・虐待で自供させられた男性が、「裁判になればわかってもらえる。無実を無抜いてくれる。大岡越前が出てきて何でそんな自供をしたんだ・・と見抜いてくれる」と語っていたという記述がありました。しかし結果はそんな立派な裁判官はいませんでした。無期懲役の判決で、無罪となるまで17年も刑務所に入れられたのです。
日本に暮らしていれば、先進国、法治国家、民主主義、独裁者の国とは違う、と政治家も官僚も評論家も話していることを常に聞きます。わたしも、そう思っていましたが、昨今の政治家や権力者の法律の解釈の捻じ曲げ方のすさまじさ、憲法を守らずにあいまいにする裁判所のやり方に、少し不安を感じるようになっているのです。そして その不安が、この本で現実化してしまいました。今の日本は権力者や役割としてその場を受け持つ執行者による、人治国家となってしまいます。一般の国民のためではなく、国や政治家のための忖度の人治なのです。
本書の衝撃の内容
この本の中には日本のシステム・裁判所・裁判官などの様々な事柄が具体的に書かれています。どれも驚くべきことばかりです。著者と出版社に迷惑をかけない程度にさわりだけ紹介します。
①良心を殺すことができない裁判官は出世ができないし、どこかで挫折する
②日本の裁判は「統治と支配」にかかわる部分はさわらずに、時の権力者=政権政党の顔色をうかがう。
③イギリス、アメリカなど世界の国が今では司法の面ではより民主主義的に進みつつある。しかし日本だけが、裁判・司法制度の基本が古い上に逆行している。
④国連で「日本の刑事司法は中世並みである」とアフリカの委員から批判されたことがある。
⑤裁判官というのは、表面上は立てられているけれども、実権は検察官が握っているようなところがある。
⑥検察は、証拠によって一定のふるいはかけるのでしょうけど、その後は有罪一辺倒でしかない。しかし刑事裁判というのは、本来は、それとは違った観点から「本当にそうなのか」という目でみなければならない。ところが、日本の刑事裁判官は「本当にそうなのか」ではなくて、「多分そうだろう」とみてしまう。もっといえば、残念ですが、刑事裁判官にとって被告人は、「奴ら」「あいつら」であり、「どうしようもない奴らで、嘘つきで、やってるに決まっている」と、こういうふうに思考が進んでいくタイプの人が多い。
⑦冤罪は、ある程度名前が知られているとか、社会的地位があるとか、そういう人が引っ掛かることは比較的少ない。社会的に弱い位置にあるような人はきわめて危ないし、住所不定だったりするともっと危ない。
⑧証拠が貧弱な事案が多いことからみても、日本で冤罪が強く主張されている事件のかなりの部分は、実際に冤罪である可能性が高いと、僕は見ていますね。
⑨刑罰の目的は一般予防、犯罪抑止効果がありますが、実際には、死刑による抑止効果は、統計上実証されていない。
⑩最高裁にさからう判決を書いた裁判官は人事的な復讐をされる
⑪裁判所も、ジャーナリズムも、マスメディアも「権力チェック機構」ではなく、「権力補完機構」的になってしまっている
・・・いかがでしょう。
これは本当に一部なのですが、この本の中には他にも驚くべきことのオンパレードです。これからの人生、裁判には関わりたくないというのが本音です。でも、そうすると、何かあった時にどのように自分を守ればよいのか?・・・悩みます。
お奨め度
★★★★★(満点!)
日本人なら、日本で暮らすのであれば、読んでおかなければならない必読の書です。何かがあった時の、自己防衛のためにも必須です。
上記の⑥等をを読むと、こんな想像ができてしまいます・・・。
もしもわたしが、何かの犯罪(刑事事件・重罪)で疑われてしまい、無実にもかかわらず、アリバイがない、状況証拠は運悪くわたしを示している、と捻じ曲げれば解釈することもできる、となった場合のことです。わたしは現在会社に所属しておりません。ダウンシフトしフリーランスの立場で、顧問等の仕事をしております。一人の時間も以前より圧倒的に増えたので、住所不定・無職ではありませんが、直接的なアリバイを証明してくれる証人が確実にいる時間が以前より確実に少ないのです。
そうすると・・・
警察に容疑者として逮捕され、長時間拘留され自供を強要されます、マスコミへは警察から捜査に都合の良い情報のみ記者クラブを通じてで流されます。わたしの書斎の本棚にゾンビ関連の映画DVDとMOOK本があったので、こいつは猟奇的な趣味を持っている奴だと言われます。そしてメディアからは家族や親せきが集団暴行のような報道を受けます。仕事先、親せき関連、昔の卒業アルバム、隣近所、子供の学校・・・めちゃくやちゃにされます。妻と私は子供の人生の安全と幸せを考え、ここで離婚か、別居を選択する事になってしまうかもしれません。
それでも・・・「わたしは無実だ」と最後まで頑張れたとしても、検察と裁判所が持ちつ持たれつという日本の裁判では、全ての証拠を基に事実を裁判官は導き出してくれるわけではなく、裁判が始まる前からわたしの有罪は決定しているのです。だって日本の裁判は有罪率99.9%ですので。そして判決は・・・「主文・・・被告人を死刑に処する」これで、わたしの冤罪死刑判決が確定です。間違った死刑判決で死刑とならないように、はやく弁護士に頼んで再審請求しなければなりまでん。判決が怪しいものは後から冤罪発覚とならないように、急いで刑を執行されてしまう『飯塚事件』という事例もあります。
大岡越前、水戸黄門はいないと、この本に書いてあります。最後まで読むと、その通りのようです。日本最高、日本が一番、世界はこんなに遅れてる・・・などなど日本万歳という本やテレビが多い今日このころ。本当にそうかな?進んでいるのか?相当古いシステムや一部の人の権力が守られるシステムが、運用されてしまっており、ある部分はとても遅れているんじゃないの?と思ってしまいます。
立法府は何してるんだ?最近は忖度や不倫疑惑・・・そんなのばかり。何千万もの議員報酬を受けているのに、国会は開かれず解散総選挙。あーあ。
わたしそして皆さんの人生で、本当にもしもの事が起こった時、何か得体のしれない悪意に巻き込まれた時、この本を読んでおくことで、その後の動き方が変わります。だから本書は重要書なのです。
おまけですが・・・この本の中では、アメリカの裁判の方がましであるという事が書かれていますが、Netflixの傑作ドキュメンタリー『殺人者への道』などを観ると、どこの国も法律や裁判を捻じ曲げて、警察、検察、裁判官は、有罪判決を創り出すことができる、すなわち冤罪を産むので恐ろしくなります。
二つ目のおまけですが・・・著者の瀬木氏は、かなりの映画好きのようです。いろいろな作品を古いものから新作まで観ておられます。この本を読むと、映画ファンだなと、感じます。
(それでは・・・あいすみません)